. 行政書士組織論: 行政書士の1人法人化について論考(1)

2019/11/25

行政書士の1人法人化について論考(1)

お疲れ様です、塩谷です。

行政書士法の法改正がありますよね、衆院通過したので決定したと言える状況だと思いますが(記事出てるからググってね)、このことで少しだけ身辺で情報共有というか、お友達とお話し合いの機会がありました。改正法の施行は1年6ヶ月後なのでまだ先の話ですが、1人法人の設立ができるようになります。他の資格法人で先行している業界があるので、流れとして自然といえば自然だと思います。それで、端的に行政書士法人は一気に増えることになると思います(今800くらい、R1.11現在)。


行政書士法人を作るのは簡単です、1人法人の発起設立なんて紙書いて出すだけなので、開業したての新人くんにも楽勝で作れるでしょう。ただし、資格法人の制度設計はヒッジョーに使いづらいもので、資格業の中で行政書士は総生産高が最も低いという現実と重ね合わせると、法人を運営するだけで発生するマターが大量にあります。運営ノウハウがあるにはあるのですが、このノウハウって主に口伝で、共有知になってないんですよね。本当にこのノウハウ、情報を必要としている人々が知らない、誰に聞けばいいのかも分からないという状況を感じます。

ノウハウ自体は業界内にちょっとずつ蓄積されてるんですよ。これから法人を作られる方に同じトライ&エラーをしていただいても良いんですが、知っていれば回避できるマターもあるので、何回かに分けて書いておこうと思います。初めて読まれる方もいらっしゃることと思うので、偉そうにてめえは誰やねんという疑義について、塩谷には大体以下のようなキャリアがあります。

  • 1人で個人事務所経営
  • 既存の行政書士法人にジョイン、政令指定都市での支店長
  • ジョインした法人での共同代表(営業所数は都市圏で5)
  • 行政書士法人の分割とM&A
  • 新設法人の設立と代表者就任(営業所数3)
  • グループ内社労士事務所の1人法人化と管理運営

資格法人の管理者としては7年くらいのキャリアですかね。行政書士の実務家または経営者としてどれほどのものかは知りませんが、資格法人の管理経験はあると言っても差し支えないかと思います。ちなみに、1人法人制度ができること自体に塩谷は消極的です。制度上の整合性などいうわけでは全くなく、これまで何年もひいこら言いながら運営してきた資格法人が1人でできるようになっちゃったら、法人であることの優位性が相対的に弱まるべ。すっげえ大変だったんだよ、その果実が弱まるなんて納得いかねえ...。

さて、冗談はこのくらいにして、まずこの法人制度のことを元々どういう設計か、の部分から検討して解説してみます。いわゆるブロガーが書くようなブログスタイルの構成になっておらず、読みにくいかもしれないですが、論考ってこういうもんだと思うので仕方ないですね、ごめんなさいね。

大前提として、行政書士法人は「持分会社」で「無限責任」、社員資格は「行政書士会に登録されている行政書士であること」です。つまり社員資格を行政書士に限定した合名会社だということです。ちなみに、税務上も行政書士法人は合名会社の規定が準用されるので、まあつまり合名会社ってことです。これは大前提で、どこまで行っても必ずついてくる決まりごとなので、この芯を外すと碌なことがありません、ナンセンスです。

まず持分会社であることです。持分会社には出資額に応じた議決権という概念がありません。だから社員が複数いる場合、議決は基本的に社員間の合意をもって行われることになり、いわゆる資本の原理は働きません。行政書士が普段お手伝いする株式会社の設立業務では出資比率が問題になったりしますが、出資比率は議決権に直結するからですよね。金を多く出した人が(基本的には)一番声が大きく、利潤を取れるのが株式会社をはじめとした資本の原理なので、経済合理性でいえば行政書士法人もそうなっていて欲しいのですが、実際にはそうなっていません。金を多く出しても決議の際には同じく1票です。ちなみに、これを出資比率に連動させるような定款上の規定を作れるかどうか検討したことがありますが、結論としては不可能ですね。複数の公証人さん達と揉んで揉んで出た結論なので、少なくとも現行法令と運用上は不可、ということで。

1人法人が設立可能になることで、もしかしたらこの持分会社であることの問題点は局地的なものになるかも知れません。支店設置しない1ヶ所営業所の法人であれば、最低限1人の行政書士が社員としていれば法人格を維持できるからです。現時点の行政書士業界のことでいえば、法人を設立するに至る類型として(Aパターン)事業として一定規模になった独立開業者が他の行政書士を事実上雇用するが法制度上社員として法人設立する場合と、(Bパターン)意気投合して盛り上がっちゃって友達同士で法人設立する場合が多いと統計上の根拠を持たずに考えていますが、(Bパターン)はほとんどコメントしようがないっていうか、好きにしなはれしか言い様がないので置いておくとして、(Aパターン)の場合は、事実上の雇用関係なんですね。この場合、決議が社員による合意に基づく(=出資額に応じた議決権ではない)ことが、問題になる可能性がありますね、というか問題になるんですね。

事実上のオーナーの方としては、俺が金出して責任者やってんだから俺の思う通りに進めるんや、と考えるのが心情でしょうが、制度上は他の社員の同意が必要で、オーナー以外の社員がマジョリティの場合には否決されてしまいます。出資比率が100:1:1でも、です。1人法人の場合議決は本人のみなのでこの問題は出てこないかもしれませんが、支店設置する場合にはやはり原則にかえって複数の社員が必要になるので、恣意的な法人運営はできなくなります。

これを複数社員間の議決問題を解決する(根本的な解決にはなりません。運用上なるべくなだらかにするだけです)方法としては、主だったものとして2つあります。1つは元も子もないですが、複数社員間で利害が発生しないような、経済上も社会通念上も職業倫理上も齟齬のない王道経営をすることですね。ぐうの音もでない綺麗事経営ということですが、この方法論の問題点としては、自分以外の社員も同じく高い倫理観を持っていないと通用しない点です。ワンマン経営はできなくなりますが、そもそも行政書士として独立開業したい人なんて基本全員ワンマン経営者なんで笑、論理破綻してるとも言えます。

ただ、事業として安定継続的に発展してゆくゴーイングコンサーンの精神でいえば、この王道経営を成功させないと行政書士はいつまで経っても行政書士のままだとも思います。それはまた別の話ですね、余談です。
事実上論理破綻してる部分はあるが、塩谷がやろうとしているのはこの路線です。だって他にやってる人がいないから。

主だった手法のもう1つ、とりあえず複数社員の行政書士法人をスタートさせたい場合のテクニックとして、(正しいかどうかは知りませんが技術的に可能)顧問の税理士さんに行政書士登録してもらって社員になってもらう方法があります。自由度の高い経営はしたいが法人にもしたいニーズには嵌ると思います。詳しいハウツーはお調べいただければ出てきますので、調べてください。方法論としてあり得ますし、実際僕の友人でこれをしてる方は結構います。本店1+税理士兼業支店1+事実上従業員である社員常駐の支店1で、3店舗までならマジョリティを確保したまま複数支店展開することができます。顧問税理士さんとしては、事業上の事実上の責任者は誰なのか理解しているので、オーナーに離反する合理性がないです。

他にも、本質的に議決権の問題を解決していないですが、他の社員に言うことを聞かせるという方法もあるっちゃあります。嫌です、と言われたら議論終わりなんですけどね、ただ現実社会では嫌というのも労力のいることだから、そこまで細かい制度設計をせず、事実上一番金出した人が一番偉いってスタイルになっている法人が殆どです。そのスタイルでやって痛い目にあって、制度設計ちゃんとしようというトライ&エラーが繰り返されています。

んで、議決権に連動しないから自分の出資も最小限にしよう、とは考えない方がいいです。行政書士法人で事実上のオーナー経営をしたいのなら、他の社員より多く(できれば比率として圧倒的な差がつくように)出資しましょう。理由はこれまでの論考と一緒で持分会社だからですが、社員は何らかの理由で脱退することがあるのです。その時、持分の精算は金銭をもって行うことがほとんどですから、仮に出資を1:1にしていた場合、自分以外の社員が脱退するときに必要なキャッシュは単純計算で純資産の半分になってしまいます。純資産の半分キャッシュが飛んだらはっきり言って死にますよ(会社が)。

これは何も個々人の手残りのことだけで言っているのではなく、純資産の半分キャッシュで吐き出してフロー悪化したから一時的に借入で凌ぎたいと思っても、そんなとこに金融機関も貸しにくいですし、人の異動程度のことで業務継続性が危うくなったとして損害を被るのは依頼者である企業なのですから、純粋な企業防衛、資本政策の一環として対策しておくべきですね。資本政策なんて大仰なものでもない、10万円と100円で出し合うくらいのことです(うちの会社は完璧これです、税理士は入れてないけど)。

はい、合名会社であることの議決等の問題について一旦終わり。すっごい長くなってしまったので稿を分けます、ニーズがあれば。ニーズはいいね!とかシェアとかで数値化できるかたちに表してくださーい。