. 行政書士組織論: 行政書士の1人法人化についての論考(4)

2021/03/03

行政書士の1人法人化についての論考(4)

ども、塩谷です。本稿を連続テーマの(4)としておりますが、(3)を書いたのがなんと1年以上前ということで、元々全国に100人しかいなかった購読者の方も既にお忘れのことでしょう。ですが新年度になると6月には改正行政書士法が施行されますから、今の段階でまとめておくべきマターかと思われます。



法改正により行政書士法人が現在の制度より容易に設立できるようになり(1人法人ができるようになる)、恐らく行政書士法人の数自体は短期的には増加するものと思われます。長期的には分かりまへん。

士業事務所を法人化することには、当然様々なメリデメがありますが、上記(3)で挙げた「社員は無限責任である」という点が最も致命的で重大な論点だと僕は思います。次のマターは「持分会社なので社員脱退時を想定した資本構成にしておくべきだ」くらいでしょうか。その他のこと諸々すべて、行政書士法人だから発生する問題ではなく、事業だから発生する問題です(売上とか人材とか....というかお金と人だよね、それが中小零細の問題の殆どすべてでしょう)。

このテーマの話を今回で最後にしたく、僕はあと1,000回行政書士事務所を新規開業するとしても事務所を士業法人化するでしょうが、ではこれまでの論考があった上で、現在個人事務所の方は法人化するのが合理的なのか、塩谷の私見をまとめておきます。

結論部分を先に書けば、売上との相関だけで言えば大体2,000〜3,000万円くらいまで来て、今後も事業として発展させていくつもりがあるなら、または支店を設置したいのなら行政書士事務所を法人化する必要があるかもね、というところかと。それ以外の場合は資格法人じゃない解決方法がある可能性があるので、なんか格好いいなどの理由であれば、よく考え直した方がいいかも(別に格好よくないから)。

僕にとっての士業事務所の経営とは、リスクコントロールしながら保守的な成長性を維持することですね。具体的にいえば、あまり派手なことはせずジリジリと前年比110〜120%くらいの成長率でチームを維持管理し、毎年度繰り返していくイメージです。途中の議論を少し端折りますが、そのくらいの事業規模や成長率を維持しないとクライアントや地域社会に寄与できないんで(現状維持にはあまりポジティブな意義はない)。

毎年成長率200%の倍々ゲームとか喧伝するほうが目立つのか格好いいのか知らんが、業界の平均成長率が仮に110%として、ハイリスクで200%を目指すより、平均以下のリスクで115%を毎年達成する方が正しい士業のマネジメントとは思わん?思わんか、そうか。

つまりいずれにしろ事業体としての成長というテーマは必ず付いて回ることになり、どこかの段階で法人化すべきではないか、という議論は出てきてしかるべきだと思う。すっごく具体的な数字を挙げれば、売上3,000万円くらいになると従業員が2〜3人いることになると思うが、もう1段階事業体として成長しようとすると、その中には「所長の身を削っても会社の幹部になってもらうべき人材」を育てなければならない。社保、賞与、福利厚生などを整備しなければならない。時間あたりの労働力を提供してくれるだけのパートタイマー・アルバイトが何人いても、事務所のアイデンティティは固まらない。

そうなるとどうしても個人事業では都合が悪くなるのだ。たまにそういった福利厚生の整備を嫌ってイレギュラーな手法(業務委託の体をとるとかさ)を使うやつがいるが、売上1億になればそこそこの所帯とみなされるような超々々零細規模の業界(つまり我々の業界)で優秀な人材を確保しようと思えば、少なくともそのくらいの「普通の勤務先」の体裁くらいつくって募集しないと、幹部になってもらえるクラスの人材は採用できない。その場しのぎの脱法的手法なんてどうせ長続きしないのよ、腹括ってフルタイム雇用する以外の道はないのだ。

士業というものが根本的に労働集約ビジネスである以上、人材に投資して成長を促す以外に事業体としての発展の途はなく、人が定着して育たないと事務所の成長は望めない。所長がいくら頑張ってもどうせただの人だから、1人以上のことなんてできないのね。

ついでに言えば、まともに事務所経営をしているとオフィスをそれなりの場所に借りる必要が出てくるのだが、それなりのところは個人事業だと与信が通らないです。どういう場所のどういうテナントかというのは人材募集に強烈に影響するので、継続的に人材募集して事業所として発展させていくには、やはりそれなりに小綺麗にしておかないといけない。

(だって考えてみ、一生懸命勉強して行政書士の資格とって、何が悲しくて小汚い雑居ビルで最低賃金スレスレの無保険労働しなきゃならんの、それでも人材が集まると思ってんの所長だけだかんな。だったら士業諦めて地方のそこそこの会社入って年給400万もらうほうがいいべ)

その他にも細かい理由はたくさんあるものの、総論として塩谷が思う士業事務所を安定継続的に発展させていくためには、法人という枠組みは必要なものと言えますね。個人主義的な、特殊なタレントに基づいて個性的な事業活動をするなら個人事務所で良いかもしれないし、その方が合理的な可能性も大いにあるが、塩谷は絶対的に凡人なので。

それで、じゃあ資格法人じゃなくてもっと一般的な営利法人でも良いのでは?という話が出てきますが、悪くないと思います。資格業の個人事務所+株式会社みたいなスタイルのところって結構ありますよね。個人の税理士事務所+会計コンサルの株式会社ってスタイルが最も一般的かと思うが、行政書士だってそれで駄目ってわけではもちろんない。

ただ、税務と会計をはっきり分けやすい税理士等と違い、行政書士の場合は明確に資格業と切り離せる業務って見出しくい場合が多く、もちろん行政書士業務を株式会社で直請けするなんて法令違反なので、その事業スキームの切り分けがちゃんと出来るなら資格法人に拘らなくてもいいかもしれない(ただしあまりないよ、普通に行政書士事務所やってて、正面切って疑いなく切り分けできる場合って)(例えば広島の産廃の奴なんて違う意味でヤベえけど、彼は官公庁向けの許認可ビジネスを行書、アセスは株式会社ってしてると思いますが、ああいうのは完全に切り分けできる珍しい例ですよね)(まあ普通行書はアセスなんかしないしできないんだけどね)。

なので、どストレートに士業ビジネスを続けていくことを考えると、事業規模の問題はあるとして、いずれ行政書士法人化せざるを得ないと思われますよね。で、「俺行政書士法人つくってこんな痛い目にあったのよ!」的なことをいう人ってたくさんいると思いますが、寝てない自慢みたいなものなので、無視していいと思います。そんな個別具体的な話聞いて参考になるわけない。種類としては「私の開業体験記」と同じだ、一般化できない話でなんの意味もない(その類の話に意味があるとすれば、追体験したような気持ちがして楽しいってことくらいか。いずれにしろ事業上の意義は全くない)。

制度上の論点としては無限責任と資本構成の問題をケアすべきだってだけですね。作った後にはもちろん運用上のマターなど無限に発生するのですが、多分まだ全体の最適解を持っている事務所は全国どこにもないと思います。

一旦ここまでにしておきます。6月から法人が増えていくのかどうか、皆で眺めてみましょう。