. 行政書士組織論: 士業のコモディティ化検討の習作

2017/05/15

士業のコモディティ化検討の習作

ども、塩谷です。近頃は暖かく過ごし易いので自転車通勤しておりますが、自宅から職場まで15分なので、いい気分転換ですね。職住近接って最高ですよ、仙台程度の地方都市の中心部に住んで、同じく中心部に職場があって、東京駅まで新幹線で1.5時間なんで、色んな意味で色んな都合が良いです(食べ物も安くて旨いし)。

表題の件について、同業者に嫌われそうな主張ですが、主張ってほど立派なものでもないですが、サンプルにとても良いニュースがあったので、これをベースに検討(の練習)をしてみたいと思います。論旨を掻い摘んで言うと、士業の業務は誰がやっても大差ないという前提で考えるほうが確からしいのではないか、ということです、本当嫌われそう。

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こないだでかいメモリ会社を買収していたような気もしますよね、まあこの方のコメントってほぼ全てダブスタなので、そのままの意味で取れませんが、メモリはコモディティ商品だということには完全に同意です。ちなみに長江ちゃんの好きな金融業界の意味でなく、経済学の意味でのコモディティですので。株価ばっかり見てる人の話じゃないので。

さて、孫さん風に言い換えるなら、僕は士業の仕事もコモディティみたいなものだと思っています。つまり先ほども書きましたが、誰がやっても大差ないものだという前提で事業を組み立てる方が健全ですし、(士業者個人の自己同一性とか、満足とかは別として)安定性や継続性、収益性など、事業上必要欠くべからざる要素にとっては合理的なのだろうな、とも思います。

つまり行政書士の許認可などは非常に良い例ですが(あと司法書士の登記とか、税理士の申告業務とか、弁護士の債務整理とか破産とか)、根拠法に基づいて個別の手続きまで落とし込まれている作業なので、担当する人間によって結果が大幅に違うなどということは基本的にあんまりないはずで、大幅に違いが生まれるのであればそれは別の問題(制度設計が間違えているとか、そもそも法令が古くなりすぎているとか、手続きに重大な間違いがある、或いは脱法行為があるとかさ)である可能性が高いです。

担当する人間の習熟度などによりスピード感とか、最初の見立てとか、ディテールについて違いが発生することは当然あるでしょうが、成果物には大した差異はないでしょう。案件の難易度、というポイントを訴求する方もいらっしゃいますが、つまり「難易度の高い案件もうちならできますよ!」ということですが、それもはっきり言って程度問題でしかなくて、どの案件も一定程度難しいですし、一定程度簡単です。んで、大まかに言えば手続き業務というものは大体どの案件も、慣れれば同じようなものです。

上記の見立てに沿えば、行政書士が顧客に提供する根っこの商品である手続き業務の成果物は、完全にコモディティですよね。規格化されたものほどコモディティ化しやすいですが、手続きは規格化されていなければ意味がないのですから、手続き業務はそもそもコモディティ商品なのです。

んで一般に、コモディティ商品は価格競争が起きやすく、新規参入がし易いため競争が激化する、という宿命ですから、行政書士業務が値下げ競争で厳しいなどと言いますが、そもそもそういうもんなんやで、でお終いの話です。

逆の見方をすれば、コモディティなのだから標準化しやすく、大量に集めてくれば処理することは比較的たやすいということにもなり、ガバーッと集めてじゃじゃーっと処理することができれば、それ自体が競争力にもなりうるということです。僕のこの業界での唯一と言っていいお師匠さんが、「行政書士の個性とは結局営業面のことでしかない」と言ってましたが、こういう意味ですね。業務の内容ではなく、依頼をどう受けてくるかの部分がユニークさなのです。

更に付言すれば、コモディティ商品というのは需要がなくならないという意味でもあるので、需要の絶えないものを扱える事業なんて最高だと思いますけどね。AIに仕事を奪われる(AIって弊社じゃなくて人工知能のことです)という一部コンサルみたいな人たちの言うことは、無視しましょう。AIとの競争は仕事じゃなくて、先ほど出ました営業の部分のことです。コモディティはなくならないと思いますよ。

さて、ここまでで散々手続き業務はコモディティだということを熱弁しましたが、日本中の全案件のうち80%くらいは、誰がやっても(もちろん独占業務などを有資格者の責任で処理することは前提として)同じようなもんでしょう。AIで受けている案件も、別に我々じゃなければ出来ないというようなものじゃないです。でもいっぱい頼んでいただけます。つまり成果物には大差ないですが、選んでいただいている理由というのは、恐らく「こりゃコモディティだ」と早々に見切りをつけて、それ以外の部分に注力してきた結果だと思います。

それ以外の部分というのは、一言で言ってしまえば組織化ということだと思いますが、塩谷風に言えば構造化だったり最適化、標準化というような作業のことです。このことが整備されていくと、私たちの業界はもっとずっと良くなると思います(だって我々他の事務所さんに比べて、圧倒的に営業活動とかしてないっすもん、全っ然してないです。マーケティングなんてこの数年で通算0秒です)。僕が業界に提案したいことがあるとすれば、このことだけです。自分の仕事がしやすくなるから。

同業者から怒られついでに、これから開業するという相談を受けた同業者さんに一言だけアドバイスするとすれば、許認可にロマンや自意識など持ち込まないことです。メモリという半導体物質に自意識を持ち込むのが倒錯した性癖に聞こえるように、資格や手続き等のコモディティに自己同一性を持ち込むなんて正気の沙汰じゃありません。当り前やんけ、と思われる方は結構ですが、でも周りにいーっぱいいますよね、資格者という自己への愛に惑溺してるひと笑